ボーノとボノ
ここにいる幼い娘と一緒にいるネコはボーノという名前だった。
茨城で修行中だったある日、ゴミ捨て場のゴミ袋の中で鳴いていたのに女房と娘が
出くわして、飼うことになった。袋から出したときは片眼が開いていなくて医者に
連れて行った。本当は住んでいたアパートでは飼えなかったのだけど、見捨てる
わけにもいかず、内緒で飼い始めたのだ。
結構やんちゃなオスネコだったが、娘はさらに上手で武勇伝がいくつかあるが、娘の名誉の
ためにそこはむにゃむにゃ…。
なぜ、このネコがボーノかというと、今話題のボノ(あの頃はボーノと呼ばれていた)から
いただいた名前なのだ(イタ飯の「おいしい」じゃありません)。
あの頃は東京を引き払って茨城にきた修行中の身で、「いったいどうなるんかいな」という
不安の中にいたんだけど、ある朝ラジオから聞こえてきたU2の、確か『Bloody
Sunday』に「これやがな!」とわが琴線が刺激されたのだ。
取りつかれたように惹きつけられ、金もないのに東京ドームまで出かけて行ったりした
(確か2回目の来日の時)。
ボノはこのころから人権意識が強かったしいろんな問題にも敏感に発言していた。
「オレたちのように、アイルランドなんていうマイナーなところから出てきて頑張って
いるバンドがいるんだから、日本のバンドも世界に目を向けろ」みたいなことも言ったり
していた。
その後、ご存じのようにU2は押しも押されもしないビッグなバンドになった。
そして、オレはその頃からU2を自然に聴かなくなった。
ボノを久しぶりにテレビで観たら、アフリカ支援の旗頭になっていて、福田君と握手
などしているじゃないか。ノーベル平和賞候補だなんて言われている。
「おまえはいったい何をしてきたのだ」と吹き来る風がまたオレに言うのさ。あ~あ、
ボノはオレよりずっと年下なのにさ。
ところで、ネコのボーノは茨城で冷蔵庫に入れられたり、オーブントースターで加熱され
かけたりしたあと群馬に連れてこられ、オレの実家でしばらく飼われてから、そのあと
行方不明になった。ああ、ボーノ、ボーノ(食べてません)。